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2007年9月24日 加湿器
遠い遠い昔。と言っても私がまだ子供だった頃の事。

家族旅行の途中。父親の趣味で、とんでもなく人里離れた温泉に向かう道での出来事だったと思う。道の傍らに「キノコ直販」と書かれた看板を見付け、旅の思い出とばかりに、少し寄り道して行く事になりました。

当時、私はキノコ類が大嫌いでしたので、「ちょっと見て行こう」と言う父親の意見に猛反対した事もあり、過去に対する記憶力が貧弱な私でも、その時の事を良く覚えています。

車を止めると、右にキノコの直販所。キノコに対する嫌悪感がそうさせたのかどうかは分かりませんが、直販所の中の様子はまったく記憶にありません。中に入ったかどうかも定かでない程。しかし、正面にあった大きな人工の山は今でもはっきり覚えています。

その山の高さは5メートルくらいあったでしょうか。少し大きめの一軒家ほどの大きさでした。コの字に作られた高いブロック塀で囲われていて、その脇にとめてあるブルドーザーがこの山の作り主のようでした。

「何の山だろう」

土?いえ、土にしてはちょっと色が明るすぎます。砂?。その頃から好奇心の塊だった私は、必然的にその山に引き寄せられ、その山を形成している物質を手に取り調べました。

「オガクズか・・・・」

キノコにオガクズ。今であればこの2つを結びつけるものが何なのか、すぐに頭に浮かびますが、当時の私にはこの2つを直結させるに足る知識がありませんでした。知識が無ければ、その場で両親に質問したでしょうが、まったく別の知識の存在によって、その機会を失ってしまいました。

ウチの母方の実家は建具屋さん。主に材木の加工を手がけていましたので、作業場の隅には加工の途中で出てきたオガクズが山のように盛られていました。

「ここも、材木の加工をしているんだな」

オガクズの山をキノコに直結する事が出来なかったため、森林資源の豊富な山間の地場産業に結びつけてしまい、そして納得してしまいました。

「このオガクズがなんだか分かるかい?」
そう問いかけてくれる大人がいたからといって、その後の人生が大きく変わった訳じゃないけど、そういった問いかけによって我が子の知識を増やしていく機会に恵まれた時、良く思い出す光景です。

そしてそのキノコ園では、その後、もっとはっきりと記憶に残る体験をしました。

キノコの直販と言っても、梨農家が畑の脇で梨の直販をやっているようなもので、お客さんなどほとんどあてにしていないような雰囲気でした。まして山奥にあるキノコの直販所ですからお客さんが来るなんて、とても珍しい事だったのでしょう、農家の方がわざわざキノコの栽培所を案内してくださいました。

大きなプレハブの建物。外壁には窓が見当たらず、まるで倉庫のような作り。
その正面にある鉄でできた大きな引き戸を左右に押し開けると、中は暗闇。
その中に一歩足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が肌に触れたのを覚えています。

その中の光景は多分沢山の棚が並んでして、そこに菌糸ビンが整然と並べられていたのでしょうけど、その光景は残念ながら覚えていません。ただ1つはっきり覚えているのは「霧」の存在です。

モワッとした霧が辺り一面漂っていました。

「こんなところにいたら、あっという間にびしょ濡れになってしまう」

当時、人工の霧といえば霧吹きの霧しか知らない私にとっては自然な発想。
しかし、その霧は手で触っても霧といった感触は無く、まるで煙の様でした。
視覚だけでなく嗅覚も参考にするなら、それは色の付いた空気のよう。

倉庫の中にしばらくいても、髪の毛も衣服もほとんど濡れないこの人工の霧は、私にとってとても、とても不思議な存在として記憶の中に残る事となりました。

そして、時は流れ・・・・・

「菌糸の寿命ってどれくらいなんだろう?」

菌床ブロックの保存なら、冷蔵庫に入れておけば6ヶ月くらいはもつとか、常温でも3ヶ月くらいもつとか、いろいろ意見はあるようですが、それはあくまで菌床ブロックの賞味期限。もし、温度も湿度も完璧に制御した温室内で菌床を栽培し、次々と新鮮なオガクズを与えていったら、菌床は永遠に生き続けるのだろうか?。ふとそんな事を考えたことがあります。

長期保存可能な「種菌」の存在や、酒や味噌、醤油の製造で使われる「麹菌」などの存在を考えれば、半永久的に生き続けると思っていいのかな。

「ではなぜ菌糸ビンの菌床は黒く変色してしまうんだろう」

ある程度の期間が経過した菌糸ビンの菌床は、幼虫が掘り起こしたりしてほぐされてしまうと、一気に黒く変色してしまいます。そして「食べないから変色するのか、変色するから食べないのか」と言う、根本的な問題はあるものの、黒く変色してしまった菌床では、幼虫の体重の増加がほとんど期待できないと言う、とても頭の痛い問題があります。

この問題を解決するためには「根本的な問題」から解決する必要があります。
そして、その解決方法はいたって簡単、黒く変色させなければ良いのです。

食べないから変色するにしても、変色するから食べないにしても、変色させなければこの問題は提議されない事になり、問題の解答を追求をしているのではなく、オオクワガタの飼育をしている私にとっては、即、解決となります。

とは言うものの、黒く変色させないようにするにはどうしたらよいのでしょう。

答えは簡単そうですね。

菌床が新しいうちは、幼虫が掘り起こした菌床もすぐに菌糸が再生する。古くなった菌床は菌糸が再生せずに黒く変色してしまう。すなわち、菌床をフレッシュな状態に保ってあげればよいわけです。

答えは出ました。しかしどうやって・・・・

冷蔵庫の中に入れる?。菌床を栽培しているんじゃなくて、オオクワガタの幼虫を飼育しているんですから、本末転倒(^_^;)
菌糸ビン交換の時期を早める?。それも根本的な解決になっていない。

冷蔵庫などで保存できないのなら、菌糸が活動できる一番良い環境を整えてあげるのが、菌糸をフレッシュに保つ一番の方法なんじゃないかな。

温度はオオクワガタの幼虫飼育にとって、とても重要な要素だから、菌床に合わせる訳には行かないけど、クワガタの幼虫にとっての適温と、菌床にとっての適温はほとん同じ様なのでそれほど大きな問題にはならないでしょう。暗い場所と言うのも共通点。

問題になるのは「湿度」かな。
オオクワガタの幼虫飼育の時も、湿度についてある程度気を配ってきましたが、菌床の管理となると、もっと徹底した湿度管理が必要になるでしょう。

「湿度管理・・・・」

まず頭に浮かんだのが加湿器。熱によって蒸発した水蒸気が温室内の湿度を上げてくれます・・・って、温度も上がって温室内がサウナになっちゃうよ(^_^;)
冬場は使えるとしても、残暑厳しいこの時期には到底使えない。

スチーム式が使えないとなるとヒーターレスファン式?。
しかし前回の実験でも分かるように、こいつは加湿できる湿度の上限が低すぎて、菌床が好む湿度まで加湿するのは到底無理。

「他に加湿する方法は・・・・」

そう考えた時、子供の頃見学した、あのキノコ園の思い出が蘇った。

「超音波式の加湿器!」

そう、超音波式の加湿器なら、あのキノコ園と同じような「霧」を発生させる事が出来ます。
水滴になりにくいですし、空気のように漂って菌糸ビンの中に入り込んでくれそうですし、なにより、あのキノコ園と同じような「霧」なんですから、菌床にとって最も適した加湿方法に思えます。

しかし、一時は隆盛を極めた超音波式の加湿器は、今ではまったくお目にかかれません。
超音波振動によって、水を微細な粒子に変えるという構造なのですが、それは同時に水に含まれる塩素や、タンク内で増殖した雑菌まで噴霧してしまうと言う欠点を持っており、塩素などで部屋の壁に白い粉が吹いたり、雑菌を吸い込んで病気になる危険があったりと言う事で、今や、そういった問題のないスチーム式にその座を奪われてしまいました。

「超音波式はもう売っていないのだろうか」

ホームセンターや家電量販店では時期的な事もあり、超音波加湿器どころか、普通の加湿器さえ売っていない状態。しかし今は、自宅にいながら一瞬にして日本中に商品の在庫の問い合わせが出来る画期的なシステムが確立されています。

さっそく、ネット商店街の大手に行き、超音波加湿器を検索してみると、ありましたありました、この季節に今や過去の遺物となりかけている超音波加湿器が沢山。数ある超音波加湿器の中から、温室内での長時間運転を考え、最もタンク容量が大きい加湿器を選びました。

超音波加湿器 CLV−082

ちょっとおしゃれなブルーのスケルトンタイプのタンクは、6リットルの大容量を誇ります。

加湿量、最大400ml/h。

連続運転15時間。
狭い温室の中ですので運転は「弱」。さらに熱帯魚用のタイマーを使って運転を制御すれば、1週間程度は給水無しで運転できそうなタンク容量です。

水を入れてスイッチオン。

「おお、すごい量」

思っていたより、ずっとすごい勢いで霧が噴出します。

触っても、水蒸気のようなジトっとした感覚はほとんどありません。さらっとしていて、まるで煙の様。

そう、子供の頃体験したあのキノコ園と同じ「煙」です。

温度制御のサーモスタットのような手軽な機器が、湿度制御については見当たりませんでしたので、運転は熱帯魚用のタイマーでオンオフを繰り返しての半自動運転ですが、これで温度湿度共にコントロール出来る、かなり高度な温室が手に入った事になり、実験の正確性の更なる向上に期待がもてます。

超音波式加湿器の欠点の1つである雑菌の噴霧については特に問題ないでしょう。密閉された温室の中ですので、雑菌がばら撒かれても人体に直接影響する事はありませんし、菌の塊である菌床の中にいる幼虫にまで雑菌が届く事はまずありえませんから。

問題は塩素などミネラル分が飛散し、結晶としてあちこちにこびりついてしまう事です。
ビンや壁ならそれほど問題にはなりませんが、ヒーターやサーモスタットなどにこびりついて悪さすると、火災の原因にもなりかねません。

塩素の除去と言えば・・・・

浄水器

それも塩素だけでなく、濁り、総トリハロメタン、溶解性鉛、カビ臭、農薬、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1,1,-トリクロロエタン、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルムなんてものまで取れてしまう最高レベルの浄水器。

クワガタの事となるとつい熱くなってしまって・・・・家族は臭い塩素入りの水を飲んでいると言うのに・・・・母ちゃん、ごめん。

さあこれで温室内に白い粉が吹かないばかりか、幼虫たちも1,1,1,-トリクロロエタンやブロモジクロロメタンやジブロモクロロメタンなどを吸い込む危険がなくなりました・・・って、なんのこっちゃ(^_^;)

温室内に設置して、超音波式加湿器の試運転。

「ふぃ〜ん」

水煙を散布するためのファンの小さな音がして、噴出し口から霧が出始めたと思ったら、あっという間に温室内に霧が充満してしまいました。

扉を閉めて、30秒ほど待ち、扉を開けると中は真っ白。フリフリのドレスを着た80年代のアイドルが歌を歌いながら現れそうな雰囲気です(笑)。

「う〜ん、いい感じ」

温室の内外に、温度計や湿度計などのセンサー類をセットし、ドルクスデザイン史上最強の温室が完成いたしました。

超音波式加湿器は、コンセントを熱帯魚用のタイマーに接続。とりあえず1時間に10分間「最弱」にて運転し、温度や湿度の変化を観察しながら、運転時間を微調整して行くつもりです。

しかし、ここに来て1つ重大な問題が発生しました。

それは水滴。

狭い狭い温室です。そこにびっしりと菌糸ビンを並べているわけですから、加湿器から出た霧が直接当たってしまう菌糸ビンが何本か存在してしまいます。

こういった菌糸ビンには、たとえ超音波式の加湿器でも、水滴がついてしまう事は避けられそうにありません。

水滴が付いても大丈夫なように対処しなくてはなりません。

一番危険なのが、水滴が溜まって菌糸ビンの中が水浸しになってしまう事。
でもこれは菌糸ビンを逆さまにする事で、水滴の進入と、水の蓄積を同時に防ぐ事が出来ます。

厄介なのは酸素の確保。
紙で出来たフィルターは水に濡れると空気を通さなくなってしまいます。

「空気用に1oくらいの穴を開けようか」
フィルターで塞がれた穴の横に、非常用の小さな穴をドリルであける。
小さい穴だと水滴でふさがってしまう可能性もありますので、ちょっと多めに3、4ヶ所。

「穴を開けるのはそれ程難しい作業ではないけど、一度あけてしまった穴は元に戻らないからなぁ〜」
上手くいくという確証が持てれば良いのですが、予期せぬ不都合が起こってしまった時、対処できなくなってしまいます。

「網みたいのがあればいいんだけど・・・・」
網なら水滴が付いても空気穴を確保できますし、フタを加工する必要もありません。

「網戸の網」
張り替え用の網戸の網がホームセンターなどで売られています。
あれをハサミで切ってフタとビンの間に挟み込めば・・・

「でも、網戸の網じゃちょっと目が細かすぎて、水滴でふさがってしまうかも」
それにフニャフニャで扱いづらそうだし、ハサミで切ったらすぐにばらけて使い物にならなくなってしまいそう。

「う〜ん、フィルターを挟まずにそのままにしておくか・・・」
穴は直径2センチくらいありますので、ビンを逆さまにすると、幼虫が掘った菌床がボロボロと落ちてしまうくらいならまだしも、下手すると幼虫が出てきてしまう可能性もあります。

「水滴でふさがらないような目の大きさの硬い網・・・・」

そう思い辺りを見回してみると・・・・なんと、こんな身近に良い物がありました。

さっそく「鉢底ネット」を購入してきて、フタの内側の大きさに合わせてハサミでチョキチョキ・・・ジョキジョキ・・・ヂョキヂョキ・・・。

か、かたい(^_^;)

数枚ならいいけど、大量生産となると、指が痛い。

カッターだと、もっとてこずる。

「痛いのを我慢してハサミで切るしかないな。よし、気合入れていくぞぉ〜」

と思ったのですが、やっぱり痛いのは嫌なので、金型を作ってしまいました。

って、おいおい(^_^;)

トン、トン、トン・・・。

0.1ミリの狂いも無く、フタの内側にピッタリ合った、まあるい、まあるい、まんまるい網が大量生産されて行きます。

フタの内側よりは小さいけど、ネジ山には引っかかる絶妙の直径・・とはいっても、通常仕事で求められる一般的な公差と比較したら、アホみたいにラフな公差ですけど(^_^;)

とりあえず、しっかりはまって、多少の事では外れない程度の一体感。

思っていたより網の目が粗くて、コバエの侵入が防げないのが気になりますが、温室の中でコバエが発生した事はありませんので、とりあえずはこの網で行ってみようと思います。

なにか良い素材が見付かりましたら、いつでも金型で量産出来ますしね。


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